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前のページ /  次のページ  2014/07/19

貴女が無くしたもの、傍らにあったもの

⇒ TOP世界樹の迷宮2>貴女が無くしたもの、傍らにあったもの


鋼の棘魚亭

かに
「それでは、ギルド長の武勇に!(ジョッキ掲げ)」

シオンアリアセバスチャンメルル
ヘクターキャットヴィクトールソフィア
「乾杯っ!」

ギルド長
(渋々ながらジョッキ掲げ)



☆    ☆    ☆    ☆    ☆



~宴もたけなわ~

ヴィクトール
「(リュートを手に)眼前に魔物の大群~♪ しかし背には守るべき命~♪ その時、猛き乙女は剣に祈り~♪」
アリア
「ひゅ~ひゅ~♪(ほろ酔い)」
かに
「いいぞヴィクトール、もっと歌えー! ……ひっく(泥酔)」




シオン




「しかしあれには驚きましたね。消息不明になったギルドを探しに行ったと思ったら……」
ヘクター
「ギルド長が一人でそのギルドを背中に庇い、魔物の群れと戦っていたのだからな」
酒場のマスター
「しかも半日以上だろ? 全くどっちが魔物だか分からねぇって話だぜ、なぁ? うはははっ!」
ギルド長
「……ふん(席を立ち)」

すたすたすた(席を移り)

酒場のマスター
「……お?」
ソフィア
「あーらら。怒らせちゃったぁ」
ヘクター
「先ほどから、何故か機嫌が悪いようだな」
シオン
「無理に宴会に参加させてしまったせいでしょうか?」
酒場のマスター
「いや。ありゃ機嫌が悪いってより……落ち込んでんじゃねえかな?」
ソフィア
「あらあら。もうツーカーの仲ってことかしらぁ?」
酒場のマスター
「アホ抜かせ」
キャット
「……」




ギルド長




(……)
キャット
「……はい(新しいジョッキ渡し)」
ギルド長
「……キャット」
キャット
「(隣に座り)……何かあったの? 皆心配してるわよ?」
ギルド長
「……別に、お前が心配することは何も無いさ」
キャット
「私は心配して無いわよ。他の皆が心配してるって言ってるの」
ギルド長
「そうか。……そうだな」
キャット
「……ホントにどうしたの? どこか怪我したとか?」
ギルド長
「……」
キャット
「……別に、言いたくなきゃ言わなくてもいいけどね。でも……話せば楽になるものらしいわよ?」
ギルド長
「……ふ。それもギルド『ロストウェイ』で学んだのか?」
キャット
「そんなところね。私で良ければ聞いてあげるけど? 一応、二人きりの姉妹な訳だし」
ギルド長
「……」
キャット
「……」
ギルド長
「……あの、フィブラを覚えているか?」
キャット
「フィブラ? お姉ちゃんがいつも身に着けてる、アレのこと?」
ギルド長
「ああ。……アレを、今回の騒動で無くしてしまってな。どうやら戦いの最中に落としてしまったらしい」
キャット
「…………えぇぇぇぇぇ!?」

ざわざわざわ……

ギルド長
「落ち着け。皆が見ているぞ」
キャット
「(ギルド長の首元見て)ホントに無い! 何で!? どうして!?」
ギルド長
「(ため息)……落ち着けと言っているだろう」
キャット
「逆になんでお姉ちゃんはそんなに落ち着いていられるの!? あんなに大事にしてたのに!」
ギルド長
「……仕方ないさ。アレに気を取られて守るべき命を守れなかったら、それこそあの人は怒るだろう」
キャット
「そ、そりゃそうだけど……。あ、そうだ! 落としたなら、今も迷宮にあるかもしれないわ!」
ギルド長
「無駄だ。転々と戦っていたので、どこで落としたのか見当もつかん。精々が24階のどこか、程度だ」
キャット
「そんなの24階のフロア全部をくまなく探せばいいじゃない! 待ってて、今から行って……」
ギルド長
「止めておけ」
キャット
「だって!」
ギルド長
「お前も冒険者の端くれだろう? 冒険者は、金なり名誉なり、何らかの見返り無くして動いてはならん」
キャット
「あう……」
ギルド長
「それに、物を探しながら進めるほど甘い場所ではないはずだ。そんなことをしてお前に何かあったら……あの人も悲しむ」
キャット
「うぅ……」
ギルド長
「(席立ち)……この話はこれで終わりだ。……先に帰っているぞ」

カランコロン

キャット
「……」
ヘクター
「……キャット」
キャット
「……ごめんね、煩くしちゃって」
ヘクター
「そんなことは気にしなくていい。……ギルド長が何かを落としたようだが?」
キャット
「……うん。とっても大事なものなのよ。何とか探してあげたいんだけど……でも……」
ヘクター
「……確かにギルド長の言うとおり、探し物をしながらというのは厳しいな。24階は少しの不注意が命取りになる」
キャット
「そう……そうよね……」
ヘクター
「まあ、そんな無茶を通そうとしている輩が居るようなのだが」
キャット
「……え?」




シオン




「(テーブルに地図広げ)……我々がギルド長たちを発見したのはここです」
メルル
「ギルド長さんが、最初に行方不明の冒険者さんを発見した地点はここだそうですわ」
アリア
「うーん。殆ど24階フロア全部ですね」
かに
「広いのう」
ヴィクトール
「ま、お仕事だし、頑張って探してみようよ♪」




キャット




「ちょ、ちょっと待って! お姉ちゃんが言うとおり危険な仕事になっちゃうし…………え、仕事?」
酒場のマスター
「ほれ(ひらひら)」
キャット
「(受け取り)……なにこれ?」
酒場のマスター
「まあ読んでみろ」
キャット
「『深い階層を探索した際、物を落としてしまった奴がいる。匂いで探索して貰えないだろうか』。これまさか……依頼書?」
酒場のマスター
「つまり、見返りがあれば動いていいんだろ? てな訳で、俺様が依頼してやるぜ」
キャット
「マスター……。でも、どうして?」
酒場のマスター
「(あらぬ方向見やり)……まあなんだ。アイツは怖ぇし、苦手だが、俺ぁ、人が本気で落ち込んでる時ぁ助けてぇ性分でな」
キャット
「……ありがとうございます!(深々と頭下げ)」
酒場のマスター
「よせよせ。礼なんぞ言ったって、これ以上依頼料は出せねえんだからよ(にやり)」
ソフィア
「そうよキャットちゃん。お礼を言うくらいなら、マスターのことを『お義兄さん』って呼んであげなさい?(にこにこ)」
キャット
「(がばっと顔上げ)そうなの!?」
酒場のマスター
「コイツの冗談を真に受けるなっ!」



☆    ☆    ☆    ☆    ☆



アリア
「(ふと)……そう言えば、ギルド長さんが落としちゃったっていうフィブラって何でしょう?」
酒場のマスター
「マントや何かを留める為の留め金だよ」
アリア
「へー。……小さいですよね?」
かに
「小さいなぁ。あれだけ広いフロアから留め金一つ見付け出せと言われてものう」
酒場のマスター
「確かに樹海は広ぇ。そんな小さなモンを探すのは人間じゃ無理だよな?」
かに
「ああ。何か手掛かりでも無いと、正直探しようがないぞ」
酒場のマスター
「そうだよな。だが俺ぁ考えた!」
かに
「ほほう。その心は?」
酒場のマスター
「動物だ! 奴らの鼻なら匂いで探せるんじゃねぇかと考えた訳だ!」
キャット
「あ、だから依頼書に『匂いで探索して貰えないだろうか』って書いてあったのね!」
酒場のマスター
「そういうこった。どうだ? 我ながら良い案だろ?」
かに
「成程、それは考えたな。しかし動物か……(ちら)」
セバスチャン
「……まさかワシじゃ無いニャ?」
かに
「ウチのギルドで動物と言えばお前しか居らん」
セバスチャン
「無茶言うなだニャ! アイルーはそんなことしないニャ!」
メルル
「そうですわご主人様! それはあまりにご無体です!」
酒場のマスター
「あー、違え違え。何もその珍獣にやらせようって訳じゃねえんだ」
セバスチャン
「ニャ?」
ヴィクトール
「他に当てでもあるの?」
酒場のマスター
「おう。ほれ、この前護衛役で行ってもらったペットが居ただろ?」
キャット
「そっか! ミニスターなら!」
ヘクター
「そうだな。猟犬だし、匂いによる追跡もお手の物だろう」
酒場のマスター
「な? まあ問題は、公女さまから借りれるかってことなんだが」
アリア
「それなら大丈夫です。またエルさんにお願いしてみますよ♪」
かに
「じゃあそれで行くか。しかし、ミニスターはセバスチャンよりよっぽど役に立つなぁ」
セバスチャン
(ニャ!?)
アリア
「仕方ないじゃないですか。セバスチャンにだって出来ることと出来ないことがありますよ」
かに
「出来ることの方が少ないわい。この前だって、欠片も役に立たなかっただろ?」
セバスチャン
(ニャニャ!?)
アリア
「……まあ確かに、今のところミニスターに全戦全敗ですけど」
セバスチャン
(ニャニャニャ!?)
かに
「まあセバスチャンの無能さはどうでもいい。早速、エル嬢に頼んできてくれ」
アリア
「はーい」
セバスチャン
「ちょ、ちょっと待つニャ!」
かに
「なんだ無能」
セバスチャン
「無能じゃ無いニャ! ……その仕事、ワシが受けるニャ」
アリア
「え? でも、セバスチャンじゃ匂い分からないんでしょ?」
セバスチャン
「分かるニャ! あの犬に出来てワシに出来ない訳が無いニャ!」
ヘクター
「それは理屈になっていないが……」
セバスチャン
「煩いニャ! ワシがやるニャ! これはアイルー族の誇りの問題だニャ!」
メルル
「センパイ、ご立派ですわ! 私も及ばずながら協力させて頂きます!」
セバスチャン
「助かるニャ! 兎に角、これ以上あの犬に出番を奪われる訳にはいかんのニャー!」
キャット
「……最後に本音が出たわね」
シオン
「……どうしましょう?」
かに
「まあ、本人たちがやる気になってるようだし、連れて行ってやるか」
酒場のマスター
「大丈夫かよオイ」
かに
「ダメだったら、当分餌抜きだな」
セバスチャン
「……いきなり背水の陣になったニャ(汗)」
ソフィア
「そうなると、ジャンヌちゃんの匂いの元が必要ねぇ」
キャット
「あ、じゃあ私、家から何か取ってきます」
酒場のマスター
「おっと、それには及ばねえよ。ほれ、これがアイツの匂いだ(セバスチャンに何か渡し)」
セバスチャン
「(受け取り広げ)……ニャ?」
ソフィア
「……マスター、それ、なぁに?」
酒場のマスター
「何って、スカーフだよ。アイツがいつも使ってるヤツだ」

かに シオンアリアセバスチャン
ヘクターキャットヴィクトールソフィア
「……」

酒場のマスター
「……あん? 何だオメエら、その冷めた目は」
かに
「……まさか、こんなことで犯罪が明るみに出るとはな(剣抜き)」
キャット
「……残念だわ。せっかく、ちょっと尊敬できる人だと思ったのに(銃抜き)」
アリア
「盗みはダメです。悪・即・打です(斧構え)」
酒場のマスター
「ば、馬鹿! ぬ、盗んでねぇぞ? この前来た時に忘れてったんだよ!」
ヘクター
「言い訳なら、もう少しマシなものを用意することだ。……来世の教訓にするといい(錬金篭手起動)」
酒場のマスター
「言い訳じゃねえ! マジだ! 信じろよオメエら!」
ソフィア
「まあまあ。皆、ちょっと落ち着きましょう?」
酒場のマスター
「おおソフィア! オメエは信じてくれるよな!?」
ソフィア
「勿論よマスター。……貴方には黙秘権があるわ。余計なことを喋ると、裁判で不利になるわよぉ?(にっこり)」
酒場のマスター
「四面楚歌か!? これが四面楚歌なんだなコンチクショウっ!」



☆    ☆    ☆    ☆    ☆



第5階層 天ノ磐座 24F

かに
「……という訳で、やっては来たものの」
キャット
「……これからどうするの?」
メルル
「では僭越ながら、まず私がチャレンジしてみたいと思いますわ!」
セバスチャン
「ガッツだニャ! 根性だニャ!」
かに
「……まあ、ほどほどに、無理はせんようにな(スカーフ渡し)」
メルル
「はい! では……(くんくんくん)」
かに
「女物のスカーフの匂いを真剣に嗅ぐ美女か。……どー思う?」
キャット
「スカーフの持ち主の妹としては、物凄く複雑な心境だわ……」
メルル
「(くんくんくん)……分かりました!」
かに
「おお? 何が分かったのだ?」
メルル
「ギルド長さまは柑橘系の香水を付けておられますわ! これは男性にも人気のある、不変の定番、ショネルの五番です!」
キャット
「……せーかい」
かに
「……で、その匂いは辿れそうなのか?」
メルル
「……すみません、それは無理ですわ……」
かに
「……次」
セバスチャン
「任せるニャ! メルルの仇はワシが討つニャ!」
メルル
「センパイ、お願いいたします!」
セバスチャン
「では、いざ勝負だニャ!(くんくんくん)」
かに
「女物のスカーフの匂いを真剣に嗅ぐパンダか。……どー思う?」
キャット
「なんかもう、早く終わってって感じ?(投げやり)」
セバスチャン
(くんくんくん)
かに
「で、どーだ? 何か分かりそうか?」
セバスチャン
(……いかんニャ。全然、さっぱり何も分からんニャ(汗))
キャット
「……ダメそうね」
かに
「言わんこっちゃない。……さあ。エル嬢に、ミニスターを貸してもらえるよう頼みに行くぞ」
メルル
「そんな!? センパイ、頑張って下さいませ!」
セバスチャン
「(こ、こうなったらだニャ!)……分かったニャ!」
かに
「あん?」
セバスチャン
「これと同じ匂いが……(きょろきょろ)……ア、アッチにあるニャ!(ビシっと指差し)」
メルル
「流石センパイですわっ♪」
キャット
「……それ、ホント?」
セバスチャン
「ホントだニャ! ワシの『野性の勘』がそう告げてるニャ!」
かに
「……鼻では無くてか?」
セバスチャン
「ま、間違えたニャ! ワシの鼻がそう言ってるニャ!(汗)」
キャット
「……どうするの?」
かに
「……ま、行くだけ行ってみるか」



☆    ☆    ☆    ☆    ☆



~三時間後~

かに
「おいセバスチャン、まだか?」
セバスチャン
「も、もうちょっとだニャ! ワシの勘がそう言ってるニャ! ……は、鼻だニャ! 鼻がそう言ってるニャ!(汗)」
キャット
「もう勘でも鼻でも、見つかれば何でもいいわよ。……見つかればね(半ば諦め)」
メルル
「(地図見やり)……あら? 皆さま、この先にFOEさんが居られるようですわ」
かに
「FOE? こんなところに居たか?」
キャット
「(遠くを見やり)……あれかしら? 変ね、今まで見たこと無いFOEだけど…………ああっ!?」
かに
「どうした?」
キャット
「あのFOE見て! 肩の所にフィブラがくっついてるっ!」
かに
「なに!? 間違いないのか!?」
キャット
「間違いないわ! スゴイ! ホントに見つかったわ! セバスチャン有難う!」
セバスチャン
「ニャッハッハ! ワシの勘に間違いは無いんだニャ!(胸張り)」
かに
「恐るべしは野性の勘だのう……。兎に角、あの泥棒FOEを叩きのめすぞ!」

キャットセバスチャンメルル
「おうっ!」




☆    ☆    ☆    ☆    ☆



鋼の棘魚亭

かに
「……と言う訳で、見事発見してきた訳だ」
アリア
「セバスチャンすごーい(パチパチパチ)」
メルル
「センパイはアイルー族の誇りですわ♪」
セバスチャン
「ニャッハッハ。ワシに掛れば軽い軽いだニャ~♪」
酒場のマスター
「で、間違い無くアイツのもんなんだな?」
キャット
「ええ、間違いないわ。(裏返し)……あれ?」
ヘクター
「どうした?」
キャット
「……裏に、見覚えのない宝石が付いてるの」
酒場のマスター
「なに? じゃあ別物か?」
キャット
「ううん。この鳥の紋章は間違いなくお姉ちゃんのだわ」
ヴィクトール
「どれどれ~。……ふーん。これ、後から宝石を付けるように加工したみたいだね~」
キャット
「あのお姉ちゃんが、このフィブラに加工を? ……ちょっと信じられないわ」
ヘクター
「何故だ?」
キャット
「……このフィブラ、実はお父さんの唯一の形見なのよ」
アリア
「形見!?」
キャット
「うん。だから、その形見に手を加えるってことが信じられなくて」
ソフィア
「逆に考えると、それだけこの宝石が大切ってことじゃないかしら?」
アリア
「そうですね~。……って、あれ? この宝石って……」
キャット
「知ってるの?」
アリア
「うん。……(ペンダント取り出し)……ほらコレ。前に、ひまわりちゃんの所で研磨して貰った宝石と似てない?」
キャット
「そう言えば……。じゃあコレ、樹海産の宝石ってこと?」
ヴィクトール
「そうだね。かなり大きいし、結構な値打ち物だよ」
ヘクター
「それだけ高価な物だから、そのフィブラに付けたのか?」
ソフィア
「バカねぇ、ヘクター君。女の基準はお金じゃ無いのよ」
ヘクター
「……では何なのだ?」
ソフィア
「この場合、誰に贈られたかってことよ。きっと、ジャンヌちゃんが大事に想う人から贈られたと、お姉さんは読んだんだけど♪」
ヴィクトール
「オレもお姉さんの意見に賛成だね~♪」
ヘクター
「……良く分からん」
アリア
「……そう言えばあの時、ひまわりちゃんが言ってたよね。ギルド長さんも、樹海産の宝石を研磨しに来た、って」
メルル
「そうでしたわね。とても大事そうにしていらした、とも仰られていましたわ」
キャット
「ちょ、ちょっと待って! ということはコレ、お姉ちゃんが想い人から贈られた宝石ってこと!?」
メルル
「そう考えるのが自然かと(微笑)」
アリア
「ギルド長さんにラブの匂いだぁっ♪(嬉々)」
ソフィア
「そうねぇ。少なくとも、ジャンヌちゃんからはラブの匂いを感じるわぁ♪」
キャット
「そ、そうですよね。あんなに大事にしてた形見の品に付ける位ですもん。……でも、一体だれ?」
アリア
「うーん……あ、そうだ! ひょっとしたら、ミニスターなら匂いで追跡できるかも!?」
キャット
「ナイスよアリア! そうと決まれば、早速公女さまにお頼みしてみましょう!」
酒場のマスター
「……あーっと、ちょっと待った」
キャット
「え?」
酒場のマスター
「俺様が思うにだな、そーゆーのは、そっとして置いてやった方がいいんじゃねえか?」
キャット
「う……。で、でも気になるし……」
酒場のマスター
「アイツもいい大人なんだ。人には言えない、プライバシーってもんがあると思うぜぇ?(うんうん)」
アリア
「……そう言われるとそうかも」
酒場のマスター
「よーし良い子だ。じゃあこの件は詮索無しだ。俺様との約束だぜ?」

キャットアリア
「……はーい」

かに
「……どうしたマスター。いつもなら、こういうのは率先して暴きに行くだろうに」
酒場のマスター
「う、うるせえよ! ほれ、さっさとアイツに届けてやんな」
かに
「吾輩たちからか? マスターが届ければいいだろ?」
酒場のマスター
「あーっとだな……俺様が届けると、余計なお世話だとどやされるからな」
キャット
「そうかしら? お姉ちゃん、御礼を言う時にはちゃんと言うわよ?」
酒場のマスター
「いや、絶対どやされる! ……てな訳で、届ける時も、俺様からの依頼だとは言わないようにな」
シオン
「しかしそれですと、我々が探しに行った大義名分の説明が付かなくなりますが」
酒場のマスター
「それは何とか言いくるめろ! いいか? 絶対に俺様の名前を出すんじゃねえぞ!?」
かに
「分かった分かった。……何をそんなに焦ってるのやら」
酒場のマスター
「焦ってねえよ! ほれ、さっさと行って来やがれ」
かに
「へいへい。では行くぞ、皆の衆」
アリア
「はーい」

どやどやどや

酒場のマスター
(やれやれ……)
ソフィア
「うふふふふ♪」
酒場のマスター
「うお!? ……な、なんだソフィア、オメエも早く行ってこい」
ソフィア
「……ねえマスター。一つ、聞いていい?」
酒場のマスター
「……なんだ?」
ソフィア
「あの、匂いを辿るのに使ったスカーフのことなんだけど」
酒場のマスター
「あ? だからあのスカーフはアイツが忘れてったんだよ。盗んだんじゃねえ」
ソフィア
「うんうん。忘れてったってことは……ジャンヌちゃん、スカーフを取ったってことよね? このお店で」
酒場のマスター
「……」
ソフィア
「スカーフを取ったってことは、兜も取ったって考えるのが自然よねぇ」
酒場のマスター
「……さぁて、どうだったかな」
ソフィア
「ねえマスター。女が、普段隠している素顔を晒すのって、結構特別なことなのよ?」
酒場のマスター
「……何が言いたい?」
ソフィア
「別にぃ?(にこにこ)」
酒場のマスター
「……け」
ソフィア
「さ、私も行ってこようかしら。……あ、そうそう」
酒場のマスター
「あ?」
ソフィア
「女の勘を甘く見ちゃダメよ? 特に恋する乙女の勘はね♪」
酒場のマスター
「……」



☆    ☆    ☆    ☆    ☆



冒険者ギルド

ギルド長
「……お前たち、これをどうやって……いやそれより、何故お前たちが……(呆然)」
キャット
「結構苦労したんだから、感謝してよね(ふふん)」
ギルド長
「……そうだな。心から礼を言おう。ロストウェイよ、ありがとう(深々と頭下げ)」
キャット
「え、あ、ちょ、ちょっと、そんなに改まって言われると……こ、困るじゃない!」
ギルド長
「キャット」
キャット
「え?」
ギルド長
「お前に助けられる日が来るとはな。……姉として、誇りに思うぞ」
キャット
「……お姉ちゃん」
ギルド長
「だが、空飛ぶ城発見の英雄に、無償で仕事をさせる訳にはいかん。待ってろ、今なにか依頼料になるものを……」
アリア
「あ、依頼料ならちゃんと貰ってるから大丈夫ですよ♪」
ギルド長
「……依頼料を貰っている? 一体誰から、どんな理由で?」

キャットアリア
(バカ……)(ごめーん……)

ギルド長
「……何故黙る?」
かに
「あーっとだな。ボランティア精神に溢れた、親切な依頼人が居たってことだ。それで納得してくれい」
ギルド長
「……フフフ、そういう事か。では、そのお節介な依頼人に伝えてくれ。今度酒を呑みに行く、とな」
アリア
「はーい。…………あれ?」
かに
「はっはっは。確かに伝えておこう」
ギルド長
「(ふと)……ちょ、ちょっと待て。その依頼人は、このフィブラを、その……み、見たのか?」
かに
「ああ、見たぞ」
ギルド長
「こ、この裏の宝石も?(焦り)」
かに
「勿論」
キャット
「大丈夫よ。その宝石に関しては詮索しないように、依頼人に言われたから。だから何も聞かないわ」
ギルド長
「そ、そうか……(赤面)」
キャット
「でも、何かあるなら早めに言ってよね? 私にだって準備があるんだから」
ギルド長
「準備?」
キャット
「住むところを探す準備よ。だって、新婚さんの家にお邪魔虫が同居してる訳にはいかないじゃない?」
ギルド長
「いらぬ心配をするんじゃないっ!(顔真っ赤)」



☆    ☆    ☆    ☆    ☆



~その夜~

鋼の棘魚亭

酒場のマスター
(無言でグラス磨き)
ギルド長
(無言でグラス傾け)
酒場のマスター
「……ホントに呑みに来ることはねぇだろうに。義理堅いっていうかよぉ」
ギルド長
「世話になったのなら、直接礼を言いに来るのは当然のことだ。……そ、それより、だな。あの、宝石のことなんだが……」
酒場のマスター
「……何の事だか分からねえな」
ギルド長
「そ、そうか……」
酒場のマスター
(無言でグラス磨き)
ギルド長
(無言でグラス傾け)
酒場のマスター
「……あーっと、だな」
ギルド長
「(びくっ)な、なんだ!?」
酒場のマスター
「そんなにビビんな。……この前言った、アレな。あながち、冗談でも無いんだぜ?」
ギルド長
「? 何の話だ?」
酒場のマスター
「だからほれ、アレだよ」
ギルド長
「アレ? ……よく分からんぞ。何が言いたい?」
酒場のマスター
「アレっつったらアレだろうが! 鈍い女だな!」
ギルド長
「なっ!? 喧嘩を売っているのか!?」
酒場のマスター
「売ってねえ!」
ギルド長
「だったら何だと言うのだ! 男だったらハッキリ言えっ!」
酒場のマスター
「だから、嫁に貰ってやるって話だっ!」
ギルド長
「嫁だと!? そんな話は…………嫁?」
酒場のマスター
「……そうだ、嫁だよ」
ギルド長
「(みるみる真っ赤)……ま、また戯言を……」
酒場のマスター
「(そっぽ向き)……だから、冗談じゃねえって言ってんだろ。何度も言わすな」
ギルド長
「……い、いやしかし……あ、あ、あの……(あわあわ)」
酒場のマスター
「……ま、オメエには、まだやることがあるんだろうけどな」
ギルド長
「(はっ)……知って……いたのか?」
酒場のマスター
「……薄々と、そうだろうとは思ってたんだ。ソイツを片づけるまで、オメエは樹海に挑むんだろ?」
ギルド長
「……ああ」
酒場のマスター
「……仕方ねえから、それが終わるまで待っててやるよ」
ギルド長
「……良いのか?」
酒場のマスター
「良いも悪いもねえよ。大体、俺様だって長い事待たせちまったからな。今度は俺様が待つ番だ。だろ?」
ギルド長
「な、何の事だか分からんな……(俯き赤面)」
酒場のマスター
「がははは! ……その代わり、樹海でくたばんじゃねえぞ? そんなヤツは……一人で十分だからよ」
ギルド長
「……分かった。この宝石にかけて、約束しよう」
酒場のマスター
「へへ、ありがとよ。……んじゃあ」
ギルド長
「改めて宜しく、か?」
酒場のマスター
「いんや。ここは末永く宜しく、じゃねえか?(にやり)」
ギルド長
(赤面しつつ睨み)
酒場のマスター
「へへへ。まあ、宜しく頼まあ(グラス掲げ)」
ギルド長
「……ふふ。ああ、宜しく頼む。……末永く、な(グラス掲げ)」



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